「フリーダムトーチ共和国が滅亡しました。」 モニターから秘書官の声が響く。 少しの静粛のあと、一人の男が口を開いた。 「やっとか。分かってたことだ。」 「…………」 モニター野前のもう一人の男は、沈黙を守ったままだ。 それを不満に思ったのか、もう一言付け加える。 「いくらオールドソンが士官したとはいえ、フリーダムトーチに連邦勢力と戦えるだけの戦力を持つなんてのはそもそも最初から無理だった。彼らにとっては残念だが、当然の結末だろうな。」 「そんなことは分かりきっている。何が言いたい、コロンボ。」 厳つい目の男がようやく沈黙を破った。 それを待っていたかのように、コロンボと呼ばれた男は話を続ける。 「だけどな、どうしてもわからないことが一つある。」 「ほう?」 「ダントンだよ。ダントンほどの切れ者なら、この戦争に無理があるってことぐらい、分からなかったはずがないだろう?」 「元地球統一連邦宇宙軍第一艦隊参謀官、あのオールドソンの右腕。確かにフリーダムトーチの小さな宇宙軍を統べて、連邦に楯突いたのはらしくない。」 「そうなんだよテッセラ。ダントンがいくら名将とはいっても、艦と人員を集められないフリーダムトーチにアガスティアを陥落させるのは不可能、こんなことはダントン本人が一番よく分かってた筈なんだ。なのになぜ戦いを止めなかったのか、これだけが納得が行かない」 テッセラと呼ばれた男は、また短い沈黙に入った後、神妙な面持ちで話し出した。 「一つ思いついたことがある。可能性の域は出ないが。」 「ほう、聞かせてもらおうじゃないか。」 「……私はそんなにダントンが諦めのいい男だとは思わない。彼にとって、ここまではまだ想定内だ。」 「フロンティアの若者が灯した小さな自由の火を、ダントンは見捨てるわけにはいかなかった。放っておいてはすぐに消えてしまうような火を少しでも長く保ち続ければ、その火に照らされた誰かが、新しい火をつけるかもしれない。」 うすら笑いを浮かべながら聞いていたらコロンボが口角を上げた。 「あんたにしちゃ面白い考えだ。とはいっても、今連邦に公然と刃向かっているのはクリアウォーターのトリティンぐらいのものだろう?新しい火をつけたところで、また風に吹かれて消えるのが落ちってとこだ。」 落ち着いていたテッセラの声が、わずかに強くなる。 「ここにどれだけ元反連邦勢力の軍人がいるかわからないお前でもないだろう?連中はまだ、連邦との戦いを捨ててはいないはずだ。」 コロンボは長い息を吐いた。 「合格だ。だけどあんたの口からそれが出るってことは、覚悟はできているんだろうな?」 対照的なまでに真剣な表情をしたテッセラが言う。 「それができないなら、我々が世の中に存在する理由はない。」 コロンボは黙って、苦笑いの表情のまま深く頷いた。